ここ数年の柴山一幸作品を全て手がけてきているSTUDIO SOUND DALIのレコーディングエンジニア大野順平。
二子玉川の閑静な住宅街に佇むスタジオにはアーティストの名演を漏らさずパッケージできる環境が整っており、今まで数多の名盤が作られてきた。
柴山が全幅の信頼を寄せるエンジニア大野に、自身のこと、今作のレコーディングのこと、柴山一幸というアーティストのことなどを存分に語ってもらった。
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大野順平プロフィール
和歌山県新宮市出身 1984年生まれ
STUDIO SOUND DALI所属のサウンドエンジニア。
チーフエンジニアの橋本まさしに師事し、多数のセッションに参加。
ポップス、ソウル、ジャズ、歌謡曲など幅広いジャンルにおいて個性的なアーティストの音楽制作に携わる。
手掛けた代表的なアーティストは、中田裕二、柴山一幸、KOTEZ&YANCY、SUGIZO、福原美穂、浜端ヨウヘイ、中間正太、森昌子など。

・一番大事にしているのは、録音の段階で自分が受けた「感動」を一滴もこぼさずにパッケージするということ

・ミックスについてお伺いします。ミックスは全てPC上で行ったのでしょうか、それともアウトボードなどを用いて行ったのでしょうか。
Pro Tools上のプラグインも、アウトボードもどちらも使用しています。
今回は結構コンソールやアウトボードの使用率が高いですね。ドラムの音作りはサウンドダリB STUDIOのコンソール(SSL/4000G)上で処理して、リコール出来る様処理した音をPro Tools内に取り込み直しています。
それ以外にもPultec、API等のEQや、dbxやUREI等のコンプレッサーも使用しています。
後は私はミックスでほぼ全作品に使っていますが、マスターにNeve/33609というステレオコンプを入れています。とはいってもほとんどコンプレッションはしていません。
どうやらこのコンプレッサーに組み込まれたトランスの音が好きみたいで、これを通っていないと何となく音の座りが悪くて、、、
マニアックな話になりますが、サウンドダリが所有している個体は、33609bというリビジョンで、ちょっとハイがなまるんですよね。その結果として、各楽器がくっつくというか、まとまるというか、そんな印象です。

上からAPI/550,560、Chandler Limited/Germanium Compressor、PULTEC/EQP-1A3、NEVE/33609B

上からAPI/550,560、Chandler Limited/Germanium Compressor、PULTEC/EQP-1A3、NEVE/33609B

・「楽器がくっつく」という感覚はとても伝わってきています!アウトボードをふんだんに使われている感じもはっきりと感じられます。逆にプラグインで「これはよく使う」といったものがあれば教えていただけますでしょうか。

最近はプラグインも本当に良く出来てるなあと感じます。
使用頻度の高いものでいうと、Sound Toys/Decapitator、Radiator、Softube/TLA-100A(これはSummit Audioの実機も使用しています。)、Crane Song/PhoenixⅡ、Sonnox/Inflatorでしょうか。
あとはSoftubeのTSAR-1というリヴァーブも最近よく使っていますね。ナチュラルでとても使いやすいです。
ただ、楽器の少ない「Natural Man」等では、やはり本物のプレートリヴァーブが欲しくなってDALI所有のEMT-140を使用しています。

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上段左からCrane Song/PhoenixII、Sound Toys/Decapitator、Sonnox/Inflator、Softube/TLA-100A

上段左がSoftubeTSAR-1

上段左がSoftubeTSAR-1

・ドラムをコンソールで処理しているとのことですが、その部分についてもうちょっと詳しく教えていただけますか。リコールできるよう処理しているというのは、原音とコンソールを通った音を個別に取り込んでいるということでしょうか。
ちょっと解りにくいかもしれませんが、コンソールのモジュールを個別のトラックにそれぞれインサートしています。そして、コンソールで作った音を改めてPro Toolsに録音しなおすという感じです。
そこからリクエストがあって微調整する場合はそこからプラグインで、大きく作り直す場合は、処理前の音に戻してまたチャレンジという感じです。
アウトボードを使ったものも同様にPro Toolsに取り込んでいます。
ただ、今回はドラムに限らず、一幸さんから音色のリクエストはほぼ無かったので、元の音に戻すことはありませんでした。

ドラムの音作りに使用したSSL/4000G

ドラムの音作りに使用したSSL/4000G

・今回もまた随所に心憎い遊びが施されていて思わずニヤリとさせられました。「ここは拘った!」的な部分があれば教えてください。
ミックス的な仕掛けは、基本的にはほとんどがフラッシュアイディアなので、あまり拘ったりはしないのですが、
あえていうなら「サーモスタット」の展開部分(ハンドルも~)のところに追っかけディレイをかけているのですが、これは録音していた時から「ここはディレイをかけよう」と思っていたんです。
ところが、実際にミックスの際にディレイをかけてみたら「ハンドルも~」の部分のフィードバックがコードとぶつかってしまいまして、、、
いつもならその時点で諦めるのですが、何故かその時は何とかしようと躍起になってしまい(笑)、ディレイ成分をハイパスフィルターでローを削って芯を無くしたり、ローファイ系のエフェクトで音程感をぼやけさせたり、リヴァーブをかけたり、、、あの手この手で何とかぶつかってる感を無くしてそのまま採用しました。
他には「Now Is The Time」のセリフ部分の仕掛けは一幸さんと二人で結構拘りました。「バルタン星人みたいにしたいんだよね。」と一幸さんに言われてYouTubeでバルタン星人を検索してみたり。笑

・Now is The Timeのその部分は僕も聞いていて「おおー」とニヤけてしまいました(笑)
あそこだけで、4台のディレイを複合的に組み合わせています。自分で作業しながら色々な意味で気が狂いそうでした。笑
セリフももちろんですが、平田さんのサイケデリックなノイズギターも最高です!

・大野さんのミックスされた音からはいつもプレイヤーやシンガーが目の前で演奏しているような生々しさが感じられます。空間の広がりよりもむしろ密度に拘っている印象がありますがいかがでしょうか。ミックスする際に心がけていることなどあれば教えていただけますでしょうか。メンタルな部分でも、テクニック的な部分でも。
ありがとうございます!密度、意識していますね。楽器や歌の「濃淡」みたいなところで色合いをつけていくイメージです。
なので、倍音をコントロール出来る機械が好きで、色々使っていますね。もちろん広がり感や奥行きも大事にしています。また、場面場面でフォーカスしたいトラックに自然に耳がいくよう心がけています。
あとは、これも今作に限らずですが、一番大事にしているのは、録音の段階で自分が受けた「感動」を一滴もこぼさずにパッケージするということですね。
一幸さん本人や、ミュージシャンの皆さんの魂のこもった歌や演奏を、リスナーにそのまま届ける事が、私達レコーディングエンジニアの命題だと思っていますので。

・倍音をコントロール出来る機械についてもう少しお伺いできますか。ぱっと思いつくのはコンプレッサーですが、それ以外にもあれば。
もちろんコンプレッサーはそうですね。前述のTLA-100Aのプラグインバージョンは、パラレルコンプレッション(原音とコンプレッサーがかかった音をミックスする処理)が可能なので重宝します。
深くコンプレッションして倍音がグッと増えたものを原音に薄く足す、といった処理をしたり。フォーカスしたい歌やベースに良く使っています。
アウトボードではChandler Ltd/Germanium Compressor等もそういう意図で使用しています。
あとは、歪みものやエキサイターなどですね。歪みものといっても、所謂オーバードライブやファズみたいな過激に歪むものではなく、真空管やアナログテープのサチュレーションです。
前述のDecapitatorやPhoenixⅡもその類いのプラグインです。
そういったエフェクトをEQの前段に入れておくと、トップエンドやボトムエンドのEQの利き方が変わってきます。地味な話ですね。笑

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・今作は「優しさ」や「深さ」みたいなものを感じる曲が多くて

・柴山一幸とはどのようなやりとりで作業を進めていったのでしょうか。また彼からのオーダーがあったとすればどのような部分だったのかお聞かせください。
これも今までと基本は同じで、私がスタジオで作ったミックスをドロップボックスで一幸さんと共有し、修正のリクエストがあれば直し、、といった感じです。
今作は一幸さんとのシンクロ率が高かったようで、非常にスムーズでした。修正リクエストもほとんどが細かいバランス等で、大きく方向性がずれることは無かったです。
今作は、録音に入る前から、「ナチュラルで、柔らかい音像」というゴールを一幸さんと共有できていましたので、上手く着地できたかな、と思っております。

・ここ数枚、大野さんが彼のアルバムを全て手がけてきています。今作で、大野さんから見て彼の変化を感じた部分などはありましたか。
そうですね、、、デモを貰った段階から感じていたのは、今作は「優しさ」や「深さ」みたいなものを感じる曲が多くて、前作「Yelling」の時とは随分印象が違いました。
なんというか、解放されたというか悟りを開いたというか、、笑
それでも、ポップさの中に潜んでいる陰のようなものは今作も健在で、柔らかいだけではない一幸さん独特の「毒」を随所に感じます。
また、今作は、特に歌が良いですね。特に個人的には、「Natural Man」の平歌の歌唱は大好きです。倍音たっぷりの優しい歌声で、これまでの作品にはない魅力を感じます。

・今作で特に思い入れのある楽曲はどれでしょう。
どれも印象深いのですが、強いて挙げるなら、ミックスの膨大な時間をかけた「That’s the way」と、個人的に今作No.1の名曲「希望の橋」ですね。
まるで違うベクトルの2曲ですが、二曲とも今作のキー曲だと思っています。あ、もちろんキー曲という意味ではタイトル曲の「Fly Fly Fly」も、壮大な仕上がりで、一幸さんの新境地だと思います。

・最後に、読者の方にメッセージをいただけますか。
6th Album「Fly Fly Fly」、柴山一幸のマスターピースにもなり得る作品だと思います。
手に取った方には、繰り返し何度も何度もきいてもらいたい程良いアルバムです。
私が録音しながら味わった感動を、是非爆音で味わってみて下さい!

レコーディングエンジニア大野順平インタビュー#1はこちら