ここ数年の柴山一幸作品を全て手がけてきているSTUDIO SOUND DALIのレコーディングエンジニア大野順平。
二子玉川の閑静な住宅街に佇むスタジオにはアーティストの名演を漏らさずパッケージできる環境が整っており、今まで数多の名盤が作られてきた。
柴山が全幅の信頼を寄せるエンジニア大野に、自身のこと、今作のレコーディングのこと、柴山一幸というアーティストのことなどを存分に語ってもらった。
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大野順平プロフィール
和歌山県新宮市出身 1984年生まれ
STUDIO SOUND DALI所属のサウンドエンジニア。
チーフエンジニアの橋本まさしに師事し、多数のセッションに参加。
ポップス、ソウル、ジャズ、歌謡曲など幅広いジャンルにおいて個性的なアーティストの音楽制作に携わる。
手掛けた代表的なアーティストは、中田裕二、柴山一幸、KOTEZ&YANCY、SUGIZO、福原美穂、浜端ヨウヘイ、中間正太、森昌子など。

■月に400時間以上働いたりしていましたから。笑

・エンジニアの世界に入ったきっかけを教えていただけますでしょうか。
ありがちですが、学生時代バンドでギターを弾いていたので、その延長ですね。
自分のバンドのレコーディングで初めてこの職業を知って、興味を持ったという感じです。

・当時やられていたバンドはどんなジャンルだったのでしょう。また自身のバンドのRecでエンジニアという職業を初めて知って興味を持ったとのことですが、どういった部分が面白いと思われましたか?
他愛も無いロックバンドですね。笑
当時の私たちの下手な演奏が、その時のエンジニアさんの技でまるで魔法の様にピカピカになった様に感じました。
まあ今聞くとやっぱりヒドい演奏なのですが、、、
その後自分でYAMAHAのマルチトラックレコーダーを買って自分たちのデモテープのレコーディングをしたりしてのめりこんでいきました。

・現在のスタジオダリに入られた経緯について教えていただけますか。
ちゃんとコンソールやアナログ機材があるスタジオで修行を積みたくて、何社か面接をうけて研修をやった中で一番肌にあったスタジオでした。
私が人生の中でいくつかあった分岐点の中でも、最良の選択だったと思っています。

・研修では主にどのようなことをなさっていたのでしょうか。またダリに入って間も無い頃はどのような業務でしたでしょうか。
ご想像通りかと思いますが、研修時代は掃除とコーヒー入れです。あとはケーブルを磨いたり、たまにセッションの見学をしたり、、といった感じですね。
それに慣れてきたら次はアシスタントのアシスタント。いわゆる「アシアシ」です。アシの後ろで見学しつつ、セッティングなんかのお手伝いです。
それが出来る様になってようやくアシスタントをやらせてもらえます。
エピソードというか、、アシスタントの頃はとにかく寝れない帰れない日々でしたね。
朝方までセッションについて、終わったらケーブル巻いてマイクを片付けてソファーで仮眠、起きてまた別のセッション、、という具合です。
月に400時間以上働いたりしていましたから。笑

■不思議なシンガーソングライターだなーと思いましたね。

・柴山一幸と初めて会ったのはいつ頃でしょう。またその時の印象など。
確か2012年の春だったかと思います。Album「I’ll Be There」の制作直前でした。
サウンドクリエイターの炭竃智弘氏の紹介で、渋谷7th Floorでのライブを観に行って、そこでご挨拶させてもらったのが最初ですね。
不思議なシンガーソングライターだなーと思いましたね。他に似たアーティストが思いつかないというか、、、
「I’ll Be There」という曲が異様に印象に残ったのを覚えています。その後、その曲の録音/ミックスを手がける事になるのですが。。

・柴山一幸の音楽についてどのようなイメージをお持ちですか。
表現として正しいかどうかわかりませんが、「アンビヴァレントなシンガーソングライター」という感じですね。
ポジティブなのにネガティブ、ストレートな表現なのに屈折していたり、同じ曲、アルバムを聴いても受け取り方が人によって違いそうな、、、
その辺りの不思議なバランスが、曲の中に独自の個性として詰まっている感じです。
また、引き出しが非常に多彩です。「お願いダーリン」(4thAlbum「君とオンガク」)と「Headway」(5thAlbum「Yelling」)が同じアーティストの曲というのは信じられません。笑

■一幸さんのアルバムはどれもほとんどエディットしていません。

・今回の録音はどのような形で進んでいきましたでしょうか。リズムから録音したのか、一発どりなのかなど、プロセスについてお聞かせいただければと思います。
基本的には今までの作品と同じ、ベーシックトラック(ドラム、パーカッション、ベース、ギター、鍵盤)をせーので録音して、歌やコーラス、リードギターや鍵盤のダビングは後に、というスタイルです。
ただ、今作は三曲ほどリズム録音時の仮歌をOKテイクにした曲もあります。
「Thank You for Me」「サーモスタット」「Natural Man」の三曲ですね。非常に良いテイクが録れていましたので。

・前作Yellingを初めて聞いた時、「なんて太くてカッコイイドラムの音なんだろう!」とビックリしました。今作でもその印象は変わらず、いい意味で「古い」感じがします。ドラム録音に使用したマイク、マイクプリ、アウトボードなど教えていただけますでしょうか。
ありがとうございます。「太いドラムの音」には拘っていますね。というのも、本来ドラムはそういう音をしています。
前作、今作にドラマーとして参加している矢部浩志さんはとりわけ出音が素晴らしいのです。その太さを殺さずに録音/ミックスするよう心がけていますね。
今作で使用されていたキットは60’sのラディックで、本当に太くてジューシーな素晴らしい音でした。

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使用したマイクは割とスタンダードですね。オーバーヘッドにAKG/C414ULS、キックにAKG/D112とNeumann/U47FET、スネアにはShure/SM57とAudio Technica/AE5100、ハイハットにNeumann/KM84、タムにAKG/C414EBといったセレクトです。プリアンプには全てのトラックにNeve/1073を使っています。

Neve/BCM10(1073を10ch搭載したサブコンソール)

Neve/BCM10(1073を10ch搭載したサブコンソール)

コンプレッサーは録音段階では一切使っていません。ドラムに限らず、ピアノやアコースティックギター等の生楽器の録音には基本コンプレッサーは使いません。
今作で参加しているクラスのミュージシャンの方は、皆さんヘッドフォンに返ってくる自身の音にセンシティブに反応してタッチをコントロールされています。
そのダイナミクスをエンジニア側でコンプレッサーを過剰にかけて抑制すると演奏に支障をきたすこともあります。録音の段階ではモニターミックスを如何に気持ちよく演奏できるバランスに作るか、と言う事に一番気をつかっていますね。
しかしながら録音段階から積極的かつ巧みにコンプレッサーを使用してダイナミクスを失わない素晴らしいモニターミックスを作るエンジニアもいらっしゃいますので、正解は無いですし、それぞれですね。

・そうして録音されたドラムをミックスしていく際に、コンプやゲートはどのように使用されていますでしょうか。と申しますのもキット全体がすごくナチュラルに鳴っている印象がありまして、普通よくある「タムをゲートで切る」みたいな処理をあまりされていないのかな、と思ったものでして。
もちろん曲によりますが、割合タイトに仕上げたい曲に関してはタムを切っていますね。今作で言うと「That’s the way」や、「サーモスタット」なんかは叩いてない部分を波形で細かくカットしています。
キックやスネアはゲートというよりはエキスパンダーでカブリを減らしていたりします。オープンでワイドに仕上げたい「uSOTSUKI」なんかは切らずにそのままですね。矢部さん&森さんコンビはチューニングもキットバランスも素晴らしいので、タムの余韻を切らなくても嫌な倍音や必要以上のサステインはありません。
コンプレッサーは今作は基本的には補正程度にうっすらかけている程度です。
「Fly Fly Fly」や「uSOTSUKI」など、スネアをオープンリムショットで叩いている曲は、UREI/1176などでしっかりコンプレッションして美味しいサステインを見えやすくしていたりします。

・ドラム以外の楽器(ギター、ベース、ピアノ、パーカッションなど)に使用した機材なども合わせて教えていただけますでしょうか。

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エレキギターにはShure/SM57、Royer Labs/R121、Groove Tubes/GT67を曲によってバランスを変えて録音しています。マイクプリはコンソール(Neve/V1)のものを使いました。
アコースティックギターはNeumann/KM84、U47、「Thank You for Me」の12弦ギターには同じくKM84と、RCAの77DXというリボンマイクを使ったと記憶しています。
ギタリストの平田崇さんは今作で初めてご一緒したのですが、非常に多彩なプレイヤーで、彩り豊かな今作のキーマンだと感じています。

・Thank You For Meのアコギはとてもいい音でした。キラキラしすぎず、箱鳴りがそのまま伝わってくるような生々しい感触があり。これはリボンマイク効果なのでしょうか?
少なからずリボンの効果はあると思います。12弦特有のツヤはKM84で捉えて、箱鳴りや楽器のコクを77で押さえて混ぜるイメージでセレクトしましたが、上手くいきました。

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ベースはセオリー通りLINEとアンプを混ぜています。DIは Coutry Man/Type85、アンプにはNeumann/U47FETです。プリアンプは1073ですね。
一幸さんの作品で唯一人4作ともご一緒させて頂いているベーシストの若山隆行さんですが、圧倒的な個性で、毎回ワクワクさせられます。
テクニカルな部分も音色も他に類を見ない、もはや柴山一幸作品には欠かせない存在です。

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ピアノにはC414ULSをステレオで立てています。こちらもプリアンプはNeve/1073です。
サウンドダリのピアノ(YAMAHA/C.F)は、弾き手のタッチによってかなりカラーの変わるピアノなのですが、杉浦琢雄さんの力強いタッチで非常に良い音で録音できました。
今作ではWurlitzerもプレイされていますが、こちらはDIでライン録音です。
データのやり取りで受け取ったシンセサイザーも素晴らしい音色でした。
パーカッションは、振りものにはRoyer/R121、コンガにはEV/RE20をオンマイクに使って、遠いアンビエンスにNeumann/U87を立てて録音して、飛び道具的に使っていたりします。
森芳樹さんも柴山一幸作品ではおなじみのメンバーですね。今作も色んな曲にパーカッションが散りばめられていますが、
「たとえばこんなレクイエム」のカスタネットのプレイで、録音現場がめちゃめちゃ盛り上がった記憶があります。
「眠り姫」のサイケデリックな中間部の不思議なパーカッション群も今作の聴き所だと思います。

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・ボーカル録音はどのような形で行われましたでしょうか。またマイク、マイクプリなどについても教えていただければと思います。
歌も、先述の3曲以外はいつも通り一幸さんがご自宅でご自身で録音されています。今作はマイクはすべてC414だと思います。プリアンプはTL Audioの真空管プリアンプを使っていると聞いています。
出来上がったテイクをドロップボックス経由でやり取りして、私の方でジョインする感じですね。
DALIで録音した三曲は、Neumann/U47TUBE、AKG/The Tubeを使っています。プリアンプはSIEMENSのV72というヴィンテージの真空管プリアンプです。

・前作でも思ったのですが、ボーカルに対してあまり修正をされていない印象があります。ピッチの揺れやかすれた部分なども活かされているような。そこがエモーショナルな感覚をさらに際立たせています。そこらへんは大野さんの判断なのか柴山の判断なのかどちらでしょうか。
基本的には私の独断です。笑
以前は歌に限らず結構エディットしたりしていたのですが、最近はめっきりやらなくなりました。
自分がリスナーとして色々な音楽を聴いている際に、リズムがよれたりピッチが上ずったりしている部分が妙にグッときたりしてる事に気付きまして。
なので、声がかすれていたり、切れ際でピッチが若干シャープしていたりしている所を、隠したり直したりせず、逆に思い切って持ち上げてプッシュしていたりします。
ヴォーカリストによっては嫌がられたりしますが、一幸さんにはそういった処理を受け入れてもらえるので、生々しさが残った仕上がりになったと思います。
私が関わった一幸さんのアルバムはどれもほとんどエディットしていません。

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レコーディングエンジニア大野順平インタビュー#2はこちら